第１０号　2005.3.31

考える人，感じる人，学ぶ人　── 我々は本当に自由なのか

　昨今の学校襲撃事件の多発ぶりについて皆さんはどんな感想や意見を持っているのでしょうか。
　テレビ・新聞の報道，識者の談話などを見聞して常々不満を感じています。覚悟ができていないというか，そのために本質を置き去りにしたまま，言葉や映像が氾濫しているだけのようです。
１．事件が起こる度にまず出る反応が，当然のこととはいえ「登・下校時の住民や保護者等による監視・誘導」，「校内への出入りのチェックの厳重化」などですね。── つまり，必要ではあるが対症療法のみ。いつも同じ。何かが足りません。事件の背景や動機も語られるのですが，概してそれは個々の家庭環境や，学校でイジメがあったかどうかとか ── いつも個別的なケースとしてとり上げるものばかりのようです。
　現在までのマス・メディアの常識からいって，「さもありなん」当たり前のことだと思います。
２．誰も言い出してくれないのでしょうか。今は学校を舞台にした事件に焦点が当たっているだけであり，他の公共の場所や不特定の人々を狙った犯行や通り魔事件はこれからも減ることはないだろうと。
　じゃあ残念ながら社会に対し閉じられた空間である家族においてはどうかというと，殺害や育児放棄，介護にまつわる虐待，殺人，一家心中等々…益々事件が増加してあたりまえだということを。
　ただ，マス・メディアや人々の反応も理解はできます。人はとり敢えず，自分にできることしかしないからです。もし，上記のような見方を認めたとしても，一体どんな解決法があるのか。どう扱ってよいのか…。世界の先進諸国の中にも模範とすべき国は存在しないし，第一，真の元凶である病原菌は，その先進国群の中にこそ今も棲み続けているのだから。
３．以前，多発する交通事故から老人や児童を守るために，通学路にボランティアの人達がよく立っていましたね。でも誰も車の運転マナーのことは言っても，車の生産量と販売量が多過ぎれば，道路を税金で作っても作っても，車が溢れるのは当然だ。とは言いません。そうすると一定の割合で事故が生じるのは必然の流れであり，国民全てがそのことを政府や企業と一緒になって公認していることをきちんと素直に認めなくてはならないでしょう。「人間」が「機械」を扱って事故が起こらないなんて幻想は多分誰も抱いてないはずなのに「交通事故ゼロの日」とか「交通事故から児童を守れ」というと，みんな沈黙するのですよね。
　車社会を後戻りさせたり，制限したり，最低限厳しく見直したりする勇気がないからでしょう。一見，自由だと皆さん錯覚しているだけで，実は世間の潮流に逆らう発言は，誰からも強制されていないのに，自己検閲が働いて，未だにタブーなのです。いろんな分野でタブーは厳然として存在していることを自覚しましょう。
４．それと全く同じパターンではないでしょうか。学校で事件が起こるから病んでいるのではなくて，病んだ世界の中で日本もしっかり骨まで感染し，浸され方がヒドイので，自然といろんな症状がいろいろな場面に発現してくるのです。
　驚くことではないでしょう。発生したむごたらしい事件は，現状を基本的に肯定すれば覚悟せねばならないことのひとつなのです。
　事件の当事者にとっては切実でたいへんだし，同情を禁じ得ません。でも同様に突発的な不幸は世界中で日常的に起こり続けているのです。犯人ひとりを取り除いても代役はいくらでも登場すると思います（ただし，犯人を厳罰―死刑―に処することには賛成）。やはり我々は，しんどくてもこの種の犯人が生まれ易い土壌そのものを作り直す努力をする以外にないでしょう。今手をつけても多分２０年以上経たないと顕著な効果は出ないのですから。