第２１号　2007.12.19

考える人，感じる人，学ぶ人　── 中学校の授業を参観して

　最近、多くの公立の小中学校で“自由参観週間”というものが設けられています。従来の参観日との違いは、指定された特定の授業だけでなく、その期間中なら、第１校時から第６校時までのどの授業でも、自由に参観できるということです。“開かれた学校作り”に取り組む公立学校が、少しでも学校の様子を知ってほしいとの思いから始めたものかもしれません。参観する保護者の方も、参観日用によく準備された授業よりも、ありのままの生徒たちの様子を知りたいと願っておられることでしょう。私自身、とてもいい取り組みだと思い、機会をとらえて幾つかの学校の授業参観に行ってみました。
　私の訪ねた中学校（公立では南海、横浜、西部）すべてに共通して言えることは、まともに授業が成り立っていないということです。時折耳にする学校の現状に、多少なりとも覚悟はしていましたが、予想をはるかに上回る騒がしさ、生徒たちの授業を受ける態度のあまりのひどさには、大変驚かされました。
【具体例】・・授業中寝ている、授業とは無関係の本を読んでいる、大声で友達と話している、携帯電話やカードゲームで遊んでいる、校内をうろついている、先生方に向かって暴言を吐くなど・・
　クラスによっては、真面目に授業を受けているのは数人ほどで、大半が自分勝手な時間を過ごしているように見受けられました。参観者がいるにも関わらず、です。原因は様々であり、一言でまとめられるものではないでしょう。さらに、教育に関しては、カゼ薬のように即効性のあるものなどなく、一朝一夕に問題を解決することはできません。しかし、一つだけ言えることがあるとすれば、学校に関わる者、またそれを見守るすべての者、一人一人に何かしらできることがあるはずだということ、そして今すぐにでも行動しなければならないということです。学校の現状を知りながら、それを無視するわけにはいきません。なぜなら、学校が荒れている時、最も辛い思いをするのは、その中で一日の大半を過ごす子供たちだからです。
　学校は主に、教師と生徒、またそれを支える各家庭の保護者との関係で成り立っています。そして、それを見守るのが地域の者であり、私たち塾講師もここに含まれるでしょう。（ただ、生徒たちの教育に関わる者という立場からすると、各家庭に対しては教師の視点に、また学校に対しては保護者の視点に近くなります。）個人的に、学校を観察してみて、それぞれの立場でできることは何か考えてみました。
　学校の主役はやはり生徒たちでしょう。塾で生徒たちと接する中で、学校の不満を聞くことがあります。うるさくて授業にならない、勉強に集中できない、勉強が分からないなど、内容は様々ですが、その不満は大抵教師か他の生徒に向けられているようです。真面目に授業を受けている生徒にとって、確かに現在の学校の状態は大変なストレスにもなりかねません。しかし、自分の努力で確実に動かすことができるのは自分だけです。受け身で学ぶ姿勢をまず変えてみることができるかもしれません。授業中聞けなかったことは、休み時間にでも先生に聞く、学校で聞けなかったことは塾で聞くなど、打つ手はまだあるはずです。さらに、自分ひとりであったとしても真面目に授業を受けているなら、その姿を見て、態度を変える友達が出てくるかもしれません。今の学校で孤軍奮闘するのは大変なことでしょう。しかし、自分の努力で確実に動かすことができるのは自分だけなのです。
　次に、大きな役割を果たすのは教師ですが、学校の先生たちもいろいろな工夫をしておられるように見受けられました。集中力の途切れがちな生徒たちを、いかに退屈させずに引っ張っていくか―そのために、グループワークを多く取り入れ、生徒たちが主体的に授業に参加できるようにしたり、視覚に訴える教材を多く用いて、生徒たちの注意を引きつけてみたり、といったようにです。それが必ずしも良い結果につながるとは限りませんが、私たちは授業を参観することで、先生方の努力に気付きもし、何らかの提案もしやすくなるのではないでしょうか。
　今回授業を参観して驚かされたのは、参観者がほとんどいないという事実です。どの学校でも、参観者が記名するシートを置いてありましたが、参観週間３日目に学校へ行って、自分が１人目だと言われた時にはショックを受けました。共働きのご家庭が増える中で、誰もが忙しい生活を送っておられることと思います。しかし、参観できる授業がある一定の期間設けられるこの取り組みは、そういう忙しい保護者の方々のためにこそあるのだと思います。数日あって、第１校時は９時頃から第６校時は３時過ぎまであるのですから、少し調整すれば、たとえ仕事を持っているとしても１時間か２時間の時間を作ることは可能かもしれません。現在、生徒たちは参観者が少ないために、参観週間中もそれとは知らずに過ごしている場合も多いようで、幾人かの生徒たちから「なぜ今日は部外者がうろうろしているのか」という声が聞かれました。また、今回も参観者はいないだろうという前提で授業をしておられるのか、“ご自由にご覧下さい”の張り紙に反して、曇りガラスの戸を全部閉め切って授業しておられる先生方もいらっしゃいます。これでは悪循環だと感じました。
　参観者の数だけで、教育に対する関心の高さは測れるものではありません。しかし、それを学校側にアピールすることにはなるはずです。生徒たちも、ご家族の方に見てもらうのは、気恥ずかしい反面嬉しくもあるでしょう。参観者の目を気にして、真面目に授業に取り組む子も出てくるかもしれません。結果的に、少しでも授業を受ける姿勢を身につけてくれれば、参観週間がより有意義なものとなるのではないでしょうか。
　最後に周囲の私たちは、できる限り子供たちの置かれている状況を知る努力をしたいと思います。そうして、ただ勉強の仕方のみではなく、日々成長していく子供たちにとって必要なこと―誰に対しても敬意をもって接することや、きちんと挨拶することなど―も引き続き教えていきたいと思います。人として当たり前にできなくてはならないことを、当たり前にできる人に育ってほしいというのが、私たちの願いです。

≪弘光≫