第７号 2004.8.28
考える人，感じる人，学ぶ人 ── スポーツについて
「スポーツ」とは，人類が生き延びるために食料を捕ったり，育てたり，要するに働く時間の他に，「余った時間」が確保できるようになって，はじめて可能になった多くのこと（例えば芸術・文化活動，読書，旅行等々…）の中のひとつですよね。
「スポーツ」は「運動競技」と訳していいでしょう。注意してほしいのは「運動」ではなくて「運動を通じた競技・競争」であるという点です。これだけスポーツが古代から栄えたのは，戦場での格闘や闘争の代償行為としての意味があったからではないでしょうか。だから女性は長くスポーツの場から締め出されていたのだと思います。
そろそろ本題に入りましょう。
（１）「スポーツ」にまつわる不正 ── 例えばプロスポーツでいえば八百長ゲーム，近年特によくいわれるドーピング（薬物使用）問題，オリンピックを誘致するためのＩＯＣ委員の買収行為 ── 挙げていけばキリないくらい出てくるでしょうが，問題は不正行為又は指導の行き過ぎ（しごき・叱責etc.）以外では，「スポーツ」は良いことであり，自己の身体を鍛練し，技術を磨き，精神も強化でき，うまくいけば莫大なお金も稼げる。── 何となく，人々は疑うことなく，検証することなく，頭から「スポーツ」は人々にとって明らかに良い行為であると信じ込んでいるように思います。
果たしてそうでしょうか。
（２）まず一番に気になるのは，プロスポーツはもちろんアマチュアにおいても「観客」や「応援」を前提又は期待していることです。つまり，練習は人知れず行うことはあっても試合においては，人の感動や共感や応援を求めている訳です。やはり根底にはヒトは群れを追い求める。光の当たる道を選びたがる。都市の人口が増え続けるのと同じ心理が働いているのではないでしょうか。
（３）「参加することに意義がある」・「愉しんでやることが大事」とはいうものの，本音のところでは勝つことに最も価値を置いているし，銀メダルよりも金メダルな訳です。また一人の勝者が輝いて見えるためには，夥しい敗者の群れが必要なのです。一人の勝者の栄光を称えることに異議を唱えることは，今一体可能なのでしょうか。誰もが言い出せない状況ではないですか。
（４）誰も疑問を差しはさまない（差しはさめない？？）ことがもたらす弊害の典型を挙げてみましょう。
「国民体育大会」いわゆる「国体」です。それこそ国民挙げてのスポーツ振興イベントですね。
ア．毎回開催する都道府県が変わりますが，いつも開催県が天皇杯や皇后杯をとるという，完全に愚かな，それこそ「公正なルール」に従って行うはずのスポーツとは正反対の動機と策謀によってしか成り立たない行為を，認め続けていましたよね。
そこでは，個人レベルでのいかに有意義な「鍛錬と完成」が散りばめられているとしても，全体を押し流す壮大な愚行を支えているだけの結果になっていると，私は考えています。── とにかく，もうずっと前から「なぜこんな愚行をマスコミも国民も市民も批判できないのだろうか」と思い続けていました。一昨年高知県が開催県となったとき，全国順位が天皇杯１０位，皇后杯１２位となりました。トップでなくて何が悪いのか，私は県民として嬉しかったし，橋本知事でなければこうはいかなかったとみています。皆さんはどう思われましたか。
イ．まだ愚かなことがあります。それは開催県になる決定があると突然予算が回り始めて，道路やらスタジアムやらが次々と新たにつくられたり，改修されたりすることです。県民は喜ぶのでしょうが，国家的規模で考えてみて下さい。なぜ各県に似たようなスタジアムがいくつも要るのでしょうか。しかも，国も県もが大借金をしているというのにですよ。
これはスポーツとは本来無縁のはずの「エゴイズムの肯定」以外の何物でもないはずです。持ち回りにするという公平さの陰にかくれて，堂々と各県のエゴを通していると思いませんか。
ウ．「国体」と似た世界規模のイベントが「オリンピック」です。選手個々の立場や思惑を超えて，壮大な無駄・地球規模での人的・物的なエネルギーの消耗があることに気付いてほしいと思います。開催都市をアテネを含むいくつかに限定するだけで随分安上がりになるし，却って公平にもなると思うのですが，各国の欲望の渦に巻き込まれているのが現状です。
また，「強者礼賛」「メダル期待」がいささか度を越えているように思いますし，人々やマスコミのとりあげ方，扱い方が危険水域をこえていると思われませんか。その種の意見をもう少し目にし，耳にしたいと願っています。今は少数意見としても認められないようなそんなタブーが世の中を支配しているみたいです。明確な言葉によって語られるのではなく，何となく肌で感じる国民という集団の意向。ちょっと恐い気がしますが，皆さんは何とも思われませんか。