第１７号　2007.05.22

考える人、感じる人、学ぶ人

　今回ある先生から卒業式で答辞を読んだ生徒を称えてやりたいという希望がありました。
　出された原稿を見ると，本当は嬉しいことだし，本人達を心から称えてやりたいと素直に思っているのですが，皆さんにそのまま報告すべきかどうか，ずいぶん迷いました。なぜ迷いが生じるのでしょう。
　今回はそれを考えてみたいと思います。内容は次の通りです。

３中学校卒業式で当塾生が答辞

　偶然が重なったというのでしょうか。今春，南海・横浜・春野の３中学校の卒業式で，いずれも当塾生が卒業生代表の答辞を読むことになったのです。武島裕君，川�ｱ貴之君，垣内綾乃さんの3名で，共通点といえば，追手前高校（科学コース）に前期試験で合格し、生徒会副会長を務めていたことでした。ついでに言うと，クラブ活動にも熱心に取り組み，勉強でも手を抜かず，今は死語となりつつある，いわゆる“優等生”でした。本来ならば生徒会長が担うべきところを，聞くところによると各中学校とも諸般の事情があり，先生方から信頼の厚かった彼らがその大役を任されることになったというのです。
　公立学校での学級崩壊・授業崩壊（一部の学校にすぎないことを願っていますが…）が進む昨今，「周囲の友達がどうであれ，君たちは悪しき風潮に伍することなかれ。学校においても模範となりなさい」と訴えてきたことが，一つの結実を見たようで，非常にうれしく感じました。「個人の自由」や「人権の尊重」という耳ざわりの良い言葉は，ともすれば子供達の悪癖を野放しにし，身勝手さを増長させることにもつながりました。当塾が目指すのは，単に成績を上げることだけではありません。どんなに「古い，頑固」と思われようとも，「ダメなものはダメ」と言い，子供達の人格形成に役立つ指導をしていきたいと願う次第です。

〔別役〕

　なぜ上の文章にスッキリしない疑問や当惑を感じるのでしょうか。まるで国語の長文読解の課題みたいですが，あえて挑戦してみます。
（ア）｢追手前高校(科学コース)に前期試験で合格し｣のくだりについて
　３人がいわゆる優等生であることに異論はないし，勉強とクラブの両立を見事に果たしたことも大変立派なことです。単なる偶然なのでしょうか。三人とも追手前高校の科学コースに，しかも前期試験で合格していますね。今，三人のようなしっかりした生徒はだいたい似たような進学先を選ぶことが多いでしょう。だから三人を学校名で以って称えれば称えるほど世間一般の風潮をそのまま受容してしまうことになるような気がするのです。
　当グループはさまざまな子弟を受け入れ，できることに限りはありますが，それぞれが先へ行く程，なるべくしっかり育つように接することを心掛けております。ですから，志望校をランク付けするような風潮とはどうしても相容れないところがあります。生徒の素質や環境はひとりひとり違います。その上，どこに進学しようとこれで安心などという場所はひとつもありません。だから，とりあえずは一番行きたい所に行けるように，できるだけ努力するしかないし，合格すれば，あとは本人がその場所で一生懸命やるしかないのです。
単に学力で線を引くのではなく，一人ひとりの生徒にとって一番よい道を一生懸命考えることにこそ，教師としての存在価値がある，つまり，どこにでもあるようなものでしかなければ，この仕事を進めていく誇りがゼロになる訳で，それでは続けられないのです。
　勿論，そうはいってもチラシ広告やグループ内のプリント等に事実をありのまま記載しますので，一見ほかの広告類と同じに見えて，違いなどないと考えられているかも知れませんね。
でもひとつ重要なことがあります。正当な理由のない限り，当グループは出すなら全員の進学先を差別なく記載します。そういうこだわりは失いたくないからです。
（イ）次に｢『公立学校』での学級崩壊･授業崩壊｣という表現について
　確かに，その事実は県内なら私立よりも公立で多いとは思いますが，全国で見渡せば，私立･公立でそう違いはないと思われます。ここでも，県内における｢私高公低｣の現状認識がどこかに潜入しているようで，腑に落ちにくいですね。
　私立中高にこれほどまで多くの人材を狩り獲られた後だと考えると，むしろ公立高は私立以上にがんばっているとも言えるからです。
（ウ）｢『周囲の友達がどうであれ，君たちは悪しき風潮に伍することなかれ。学校においても模範となりなさい。』｣について
　文章が短いだけに，言葉尻を捉えるようで嫌なのですが，｢周囲の仲間たちの悪い部分には関わらず(干渉もせず)，とりあえず自分の生き方を貫き，各学校の模範となる｣ことが一体可能でしょうか。
今の世の中で，教育分野だけでなく，最大の問題なのが家族･隣近所･すぐ近くにいる人々との没交渉･無関心なのです。
　人間は誰でも自己の属する環境の中でしか生きていないのだから（異なる環境に移ることは可能），身近な人間と関わりが希薄であると成長のバネを得られないわけです。だから，その環境（この場合学校や仲間)に悪い風潮がはびこっていると思ったら，まずそれと取り組まないでいては，人として本当に成長でき，本物の大人になれるはずがありません。言い換えると，｢優等生｣であればこそ，その幸運を感謝し，悪しき風潮を批判し，可能な限り干渉すべきではないでしょうか。学校だけではありません。他人に無関心な優等生，自ら泥をかぶらないことに長けた優等生が，皆さんの周囲に，世界中にゴロゴロいることは，十分御承知のことではないですか。ただ，これでは余りにも，要求水準が高すぎると思われるでしょう。
　でもより良い社会を築き上げるためには，絶対に必要なのです。それは何度断言してもいいことです。
（エ）｢『個人の自由』や『人権の尊重』〜最後まで｣について
正しいと思いますし，当グループが毎日取り組んでいることでもあります。また，(ウ)ともきちんとつながっています。
　ただひとつ，また言葉尻をとらえるようですが，本当は断じて「古く」ありません。｢頑固｣でもありません。社会の中にあるべきルールを教えたり，ずるいことを叱ったり，卑怯なことを許さなかったり，ただ単にだらしないことを戒めたりすることは，どんな時代でも常に真っ先に求められる，普遍の真実(不易)ではないでしょうか。

　以上，いろいろ書きましたが，当塾の生徒が答辞という責任のある役目を，しかも３人そろって，果たしてくれたことは本当に喜ばしいことだし，彼らの頑張りの表れでもあるのですが，それを称えようとすると，言葉で表現するのは非常に難しいということを感じたというのが，今回の率直な感想です。

＜塾長と他2名の合作＞